【実践コラム】経営者が現場から離れるために


…資金を調達し時間的な猶予を得ることです

「経営者の仕事とは・・・」多くの場面で語られる大変重要なテーマです。その中で、概ね支持されている意見は、「現場仕事で忙しくするのは経営者の仕事ではない。」というものではないでしょうか。私も全く異論はありません。ただ、経営資源が不足する中小企業にとって、考え方は正しくても実践するのは容易ではありません。

新しい事業の構築は簡単ではありませんので、殆どの経営者様は、他人任せにせず自ら現場に入って事業をスタートさせるはずです。その後、現場で陣頭指揮を取りながら事業の構築に取り組みますが、多くの中小企業経営者様は、この状態から脱却できずに苦しんでいるように感じます。

この状態の時に経営者が現場から離れると、たちまち業績が悪化します。思い切って従業員に任せない限り、いつまでたっても従業員は育ちませんが、その間の業績悪化を容認できるほど、資金的な余裕はありません。中小企業の経営者様が現場から離れられないのは、「資金的な余裕がないこと。」もひとつの要因ではないでしょうか。

先日、飲食店を2店舗経営している顧問先様の資金調達を行いました。社長様は、調達した資金で3店舗目を出店したいと考えていましたが、私は、財務部長として、「現場を離れるために既存店舗に力を入れてはどうか。」と提案しました。無理に拡大をするよりも、じっくりと事業を作り込んだ方が良いと考えたためです。

同社の社長様は、1号店の店長として今でも現場で頑張っています。将来的には経営に専念して、多店舗化を目指したいと考えていますが、従業員に任せている2店舗目の業績があまり良くないため、2号店の業績をカバーするために、やむを得ず1号店で頑張っている状態です。このような状態で3店舗目を出してしまうと、ますます現場から離れなくなります。

最終的には、3号店の店長として考えていた人材を1号店の店長に据え、社長は両店舗の店長教育に専念することになりました。1号店の業績が悪化する可能性もありますが、資金的には当面耐えられる状況です。

経営者が現場から離れるためには、従業員の成長を含めた事業の作りこみが必須です。事業を作りこむためには時間が必要です。その解決方法の一つとして、資金を多く持つことが、時間的猶予を得ることになるのではないでしょうか。